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ルパンに乾杯!

2012年3月26日 (月)

『ルパンの冒険』『奇岩城』/モーリス・ルブラン

ルパン全集25巻まで読んで、また1巻へ戻ってきて、1巻目と2巻目は思ったよりわくわくできなかったのですが。

この3巻目は面白かった!

1巻目は短編集だったし、2巻目はホームズに遠慮してる感じがルパンファンにはしたし、やっとこの3巻目で本領発揮!って感じ。

でもこれ、もともとお芝居用に書かれたものだそうで。

ルブランさんと劇作家のクロワセットさんという方の共作でお芝居が作られ、それがまた大変な評判を取って、改めて小説化したのがこの作品。

後の長編の「これでもか!」という手に汗握る展開、ページを繰る手が止まらないワクワク感は、お芝居から始まったのかしら。

もとがお芝居だからか、生き生きとしたセリフの応酬、最後のゲルシャールとルパンの対決も「言葉」での対決になってて、すごく面白い。心理戦というか、言葉で追い詰め、言葉で裏をかき、はったりをかまし、相手より優位に立とうとする。

たまりません♪

ルパンの宿敵とされる「ガニマール警部」の名前が、「ガリマール」という有名出版社の社長の抗議により使えなかったために、「ゲルシャール」という名前に変更して登場している、と解説に書いてあるのですが。

作中にはガニマールの名も出てきます。

「(ルパンは)フランスでもっとも風変わりで、もっとも大胆で、そしてもっとも天才的な泥棒よ。この十年間警察をきりきりまいさせ、ガニマール刑事やイギリスの偉大な探偵シャーロック・ホームズや、フランスが生んだ、ビドック以来の最高の名探偵といわれるゲルシャール警視正のうらをかいてきたのよ」 (P49)

ガニマールとゲルシャールは別人という書き方ですよね。

ずっとルパンのことを追いかけてきて、予審判事に「ルパンのこととなると誰のいうこともきかない、強迫観念にとりつかれている」などと言われるその人となりは確かに他の作品でのガニマールと同じなのですが。

名前の変更といえば、前作「ルパン対ホームズ」でコナン=ドイルの抗議により「エルロック・ショルメス」となっていたホームズ、やっぱりワトソンも「ウィルソン」に変えられていたそうです。

ルパン全集では普通に「ホームズとワトソン」と訳されているのですけどね。

あと、このお話でビクトワールが初登場。

「まだほんの7歳なのに、もういっぱしのいたずらぼうやでしたよ」 (P323)

6歳の時、初めて盗みを働いたルパン。『怪盗紳士ルパン』に収められたその「女王の首飾り」事件の後、母子ともにそれまで厄介になっていた屋敷を追い出された、ということになっていましたから、追い出された先でビクトワールが「乳母」として雇われたんでしょうか。

この作品では「中年の女性」と表現されているんだけど……「中年」って何歳なんだろう……。

ちなみにルパンはこの時28歳らしい。ビクトワールが「あの年では良かったのです、小さな泥棒なんてかわいらしいですから。でも28歳になった今では…」と嘆いてる。

んんんー、となるとゲルシャール警視正はルパンが18歳の時から追っかけてることになるけど、ルパンの公式デビューってそんなに早かったんだっけ? 『カリオストロ伯爵夫人』の時のルパン何歳だった???

Wikiによると初めてアルセーヌ=ルパンを名乗ったのが「アンベール夫人の金庫」(『怪盗紳士ルパン』所収)で、19歳の時ってなってるから大体10年で合ってるのか。

でもWikiではこの『ルパンの冒険』は31歳の時になってる……。

必ずしも毎回作中に年齢やその時の西暦が出てくるわけじゃないから、まぁ幅があって当然なのだろうけど、ビクトワールがしっかり「28歳」って言ってるのになぁ。

ともあれ。

お話は大変面白かった♪ 満足満足。

はい、ついに『ルパン全集』最後の巻です。

って、4巻目じゃないか!(笑)

何度もくどいですが、私は「ルパン全集読破作戦」を5巻目の『813』から始めたのですね。そもそもの発端が集英社文庫版『奇巌城』を手に取ったことで、その続きから全集を読み始めた。

1冊目の『怪盗紳士ルパン』は数年前にハヤカワ文庫版で読み返していたし、ルパンvsホームズも子どもの頃読んでるし、まぁ続きからでいいか、と。

でもやっぱりそれじゃ「偕成社版全集を読破した!」とは言い難いですし、何よりルパンと別れがたく、5巻目から25巻まで読んだあとに1巻へ戻ってついに「最終巻」へとたどり着いたわけです。

集英社文庫版『奇巌城』を読んだのが昨年の夏ですから、おおよそ8か月かかっての読破。

いやー、これで終わりだなんてねぇ。また『813』読もうかしら(笑)。

8か月前に読んだばかりでトリックも展開も覚えているにも関わらず、さくさくページを繰れた『奇岩城』。ルブランの原作が素晴らしいのはもちろん、偕成社版は訳がとても読みやすいです。

集英社版は訳が古いんですよね。

最初の屋敷での事件の描写、すごく大事なところなのに何か状況がうまく頭に入ってこない。初めて読むなら私は断然偕成社の方をおすすめします。

このルパン全集は発表順に作品が並んでいるのですが、よく考えたらこれがルパン物初の長編なんじゃないでしょうか?

『ルパンの冒険』がもともとお芝居だったこと、『ルパン対ホームズ』が連作中編2つといった構造になっていることを考えると、最初から「小説」で「長編」なのはこの『奇岩城』が最初では。(あ、そういえば集英社文庫は『奇巌城』、全集は『奇岩城』と、「岩」の字が違います)

最初なのにいきなり高校生がお相手。

ルパンの天敵はガニマール、ということになっているけど、ここまで3作でガニマールは意外と活躍してない…気がする。1作目は短編集だし、2作目はもちろんホームズとの対決。3作目『ルパンの冒険』ではこの記事前半で書いたように「ガニマール」の名前が使えなくてゲルシャールになってる。

ゲルシャールはルパンとかなり頑張って対決してたけど、まぁ、もとがお芝居だから。

前にも書いてますが、高校生探偵ボートルレ君はめちゃくちゃ優秀です。ルパンファンとしては「何よ、ガキのくせに!」と思っちゃうくらいルパンを追い詰めてくれます。

ボートルレ:「事実が、ぼくの目の前に姿を見せはじめた事件の全体像と合致するかどうか、確かめにいきます。」
予審判事:「もし、合致しなかったら?」
ボートルレ:「その場合には、予審判事さん、事実のほうがまちがっているということになりますね。そのときには、もっとぼくのいうことをきく事実を捜しますよ」
 (P90)

工藤新一くんみたいですねぇ(笑)。若いからこそ言えるうぬぼれたセリフ。

ルブランさんのこーゆー巧みなセリフ回し、大好きですわ。

しかしこれが集英社文庫版だとだいぶイメージが違いまして。

ボートルレ:「ぼくはこれから、自分で見当のつきはじめた概念に、事実が適合するかどうかを見に行くんです」
予審判事:「もしも、うまく適合しなかったら?」
ボートルレ:「なあに、判事さん!それは事実がまちがってるからですよ。そうしたら、もっと御しやすい事実を探しますよ」
 (P78)

もちろん「意味」としては同じことを言ってるわけですが…そしてどちらがより原文に近いのか私にはわかりませんが。

偕成社版の方が読みやすいし、ちょっと小生意気な高校生の雰囲気がよく出ている気がしません?

ストーリーについては前にもちょろっと触れているので割愛しますが、読み進むうちになんだかどんどん物悲しい気持ちになってきちゃいました。ルパン物の代表作に数えられる『奇岩城』、確かに謎解きや秘密の砦、「クライマックスが3回」というこれでもかの展開で面白いけど、なんというか、「好き」とは言い難い。

子どもの頃は好きだったように思うのだけど、全集をすべて読み終わった今となっては、『虎の牙』や、『オルヌカン城の謎』の方が好きだなぁ、と。

『オルヌカン城』なんてルパンほとんど出てこないんだけどね。

『奇岩城』はあまりに結末が悲劇的だと思う。

せっかくの秘密の砦を手放さなければならないルパン。高校生に追い詰められたからではなく、愛する女のためにそれをして、けれどその愛する女は……。

ルパンを「敵」として事件の真相を暴きながら、それでもルパンに惹かれずにいられないボートルレ。

ルパンのひきつった顔には、いかにも疲れきったような表情がうかんでいたので、ボートルレは、なんとなくあわれを感じた。この男の心のうちでは、悲しみも、ふつうの人よりふかく大きいにちがいない。よろこびも、誇りも、屈辱感も、すべて人一倍強く感じる男だから。 (P314)

読んでる私もせつなくなるんですよねぇ。

ちなみにここの集英社版はこんな訳。

ゆがんだ彼の顔に、いかにも疲れたといった様子が見えたので、ボートルレはなんとなく哀れを感じた。この男は、ほかの人以上に苦悩を深く感じるのだろう。喜びや、誇りや、屈辱感も、人一倍つよいのだ。 (P261)

『ルパンの冒険』で初登場した乳母ビクトワールは偕成社版ではルパンを「ぼっちゃん」と呼んでいて、集英社版では「坊や」と言ってます。この作品でルパンは34歳くらいらしい(Wiki参照)ので、「坊や」はさすがに気持ち悪い感じがします。「ぼっちゃん」と「坊や」、意味はほとんど同じだろうに、語感の違いが面白い。

同じく『ルパンの冒険』で重要な役割を果たしていたルパンの部下シャロレも再び顔を覗かせています。全集を順番に読む楽しみはこんなところにもありますね。

最後、すべてを悲劇にしてしまうのは実はホームズで、この作品のホームズがコナン・ドイルの本物ホームズでないのはわかっていても、「えええええーっ、ホームズひでぇーーーーーっ!」と思ってしまいます。

復讐の快感に酔って女を人質にし、挙げ句の果てに……ですよ。いくらこれまでの対決で煮え湯を飲まされ、「今度こそルパンをとっつかまえてやる!」と心に誓っていたにしても、ですよ。

父親を人質にされてなおルパンを憎めず惹かれてしまうボートルレ君がいるだけに、よけいそのひどさが目立ちます。

大体「対ボートルレ」のはずが最後突然「対ホームズ」になるんですよねぇ。いや、もちろんちょこちょこ顔は出していたけど、でも「えーっ!」って。なんでここで出てくるんだよぉ、と。

うん、まぁ、ルパンという曲がりなりにも「犯罪者」である男にそうそうハッピーエンドを用意するわけにいかない、そしてその悲劇の幕を紅顔の美少年ボートルレに引かせるわけにもいかない、無粋なイギリス人に、ってことなんだろうけど。

罪はルブランさんにあるとわかっていても許せん、ホームズ。

あと、ルパンは愛する女レーモンドのために足を洗おうとするんだけど、それってどうなんだろうと思った。

ルパンの気持ちじゃなくて、レーモンドの方の気持ち。

そりゃあ夫が「犯罪者」っていうのは嬉しくないし、愛する男が常に危険と隣り合わせでいることが耐えられないのはわかるけど、でも「冒険」をやめたらルパンがルパンでなくなってしまう。そんなルパンだからこそ愛したのだろうに、その「そんな」部分を捨てさせて、本当に「幸せ」になれるのか。

最後、ずっとレーモンドは不安そうにしてて、そして結局悲劇のヒロインになってしまう。ルパンがルパンであり続けるために、彼女とのハッピーエンドはあってはならなかった……。

『ルパンの冒険』で結ばれたソニアも「無惨な死をとげた」と今作で言及されているのですけどね。

惚れっぽくて愛情豊かで、でもその分移り気で、一つところに留まってはいられないルパン。落ち着いた暮らしなど望むべくもない――きっと本人も望みはしない冒険家。怪盗紳士。

唯一無二の彼の活躍、これで本当に、全部読んじゃいました。

全集には「別巻」としてルパンの出て来ないルブラン作品が収録されています。また後日そちらも読んでみるつもりですが。

オ・ルボアール、ルパン。

アデューなんて、言わないよ。

2012年3月 4日 (日)

『怪盗紳士ルパン』『ルパン対ホームズ』/モーリス・ルブラン

最終巻まで読み終わって、また1巻に戻ってきました『ルパン全集』。

やはり途中からでは「全巻読破!」とは言えない。

何よりあれでルパンとお別れするのが寂しかった。

記念すべきルパン初登場『ルパン逮捕される』を含む短編9篇。

いきなり最初が「逮捕される」っていうの、すごいですよね。ルブランにシリーズ化の意図はなく、探偵小説を書くこと自体乗り気でなかったという話なのですが、結果的にはすごくエスプリの効いた登場になったなと。

すでにルパンの名は有名になっている。

どんなすごい盗みをして有名になったのか、どれくらいすごいのかさっぱりわからないまま突如「有名な怪盗」として目の前に現れ、その彼が捕まるのか捕まらないのか、「船の上」という外界から切り離された、逃げ場のない“密室”で、どうピンチを切り抜けるのか。

女の子の目を気にして、というところがまた、ルパンは最初からルパン。

そして最初は一人称なんですよね。ルパンが自分で語っている。

登場してすぐ逮捕されちゃったルパンは『獄中のアルセーヌ・ルパン』になり、『ルパンの脱獄』で自由の身に。この2作は3人称。

『ふしぎな旅行者』がまた1人称で、『女王の首飾り』はルパン6歳の時の初仕事を描き、当然3人称。

『ハートの7』は1人称ですが、ルパンではなく一連のルパンの「伝記」を書くことになった「ぼく」が語り手。なぜ「ぼく」がルパンと親しくなり、なぜその話を世間に向けて公表する役になったか。

トリックというか「事件」としては『ハートの7』が一番好きですね、この9篇の中では。

『アンベール夫人の金庫』は若き日のルパンの失敗談。『黒真珠』はピンチをチャンスにしてまんまと成功したお話。そして最後は『おそかりしシャーロック・ホームズ』。

どれも粋で楽しめますが、やはり手に汗握る長編をさんざん読んだ身にはちょっと物足りない。

子どもの時に一度読んで、大人になってからもハヤカワ文庫で読んで、今回で3回目。うろ覚えながらもなんとなく話の先が読めるので、それもワクワク感をそぐ要因だったかな。

『おそかりし~』では『逮捕される』のネリー嬢が再登場するのですが、かなり唐突な印象。なんで彼女が?と思ってしまいました。読者サービスと言えばそうなんでしょうけど…。

2巻目は本格的にホームズと対決です。

原作は「シャーロック・ホームズ」ではなく「エルロック・ショルメス」となっています。コナン・ドイルからのいちゃもんで「ホームズ」という名は使えなかったそうな。

まぁアナグラムなのでバレバレですけどね(笑)。ワトソン出てくるし。

原作ではワトソンも別の名前になってるのかしら。

『金髪の美女』と『ユダヤのランプ』の2話構成。うーん、どうなの? 『水晶の栓』や『虎の牙』を読んでしまった後で読むと、すごくワクワクするとは言い難い。

私がホームズにはあまり思い入れがないこともあるんだろうけどな。

ホームズにも花を持たせなきゃ、とルブランさんも気を遣っているから、ルパンファンとしては「もっとこてんぱんにやっつけちゃってよ!」と思っちゃう。

ホームズがやられない代わり、ワトソンが1話目では腕を折られ、2話目では胸を刺されて重傷。気の毒なワトソン……。

ルパン物って実はルパンが探偵役になっていることが多いけど、ホームズ相手ではどうしたってルパンが「捜査される側」「追われる側」になってしまって、それもドキドキ感が薄い要因ではないかと。「追い詰められる」のも確かにドキドキするけど、いつものルパンは「追い詰められながらも素晴らしい知力・体力で謎を解いて勝者になる」。

「謎を解く」楽しみを、今回はホームズが奪っていっちゃってるから。

ルブランさんはうまいので両雄はちゃんと並び立っているんだけど、だからこそルパンファンは物足りない……。

でも最後の方でホームズが言うセリフは心憎い。

「ルパン君、この世にはどんなことをしてもわたしが意外と思わない人間がふたりいる。第一はわたし。そしてそのつぎは、きみだ」

2012年2月14日 (火)

『カリオストロの復讐』『ルパン最後の事件』/モーリス・ルブラン

さぁさぁさぁさぁ、ついに24巻まで来てしまいましたよ、『ルパン全集』。ルパンの活躍がもう読めなくなると思うと……うう、また1巻から読み返そうかと思うぐらい寂しい。

24巻『カリオストロの復讐』は、もちろん第15巻『カリオストロ伯爵夫人』の後日譚。

まだ「ルパン」になる前のラウール=ダンドレジーと愛憎劇を繰り広げた女盗賊ジョゼフィーヌ=バルサモ。結局は自分を捨てクラリスを選んだラウールに復讐を誓い、クラリスとラウールとの間に生まれた子どもを誘拐する。

もちろん、行方不明になった子どもをさらったのが彼女だという証拠は何もなかった。でもあのルパンが、まだ若造だったとしてもあのルパンが八方手を尽くしてその行方を突き止めることができない、そんな仕事をしおおせられるのは……。

出産してすぐ、クラリスは亡くなってしまっている。いつか子どものことも遠い記憶になってしまっていただろうルパンのもとに、四半世紀の時を経て、カリオストロ伯爵夫人の亡霊が現れる――!

と言っても。

ジョゼフィーヌ=バルサモ自身は登場しません。「ルパン自身による前書き」という部分で、それははっきりと言明されています。読者に「なんだよ、出てこなかったじゃないか!」と文句を言われるのがルブランも嫌だったのでしょうか。

とはいえこれは、カリオストロ伯爵夫人、ジョゼフィーヌ=バルサモの面影が、なんとも悲劇的な影を落としている物語である。過ぎた恋がはげしければはげしいほど憎しみは深く、復讐をつつむ闇もまた、黒々として濃い。そのような物語であれば、どうして題名にカリオストロの名を冠せずにいられよう。 (P10)

この前書きはなかなか面白くて、

もちろん、自分が特別に感じやすいことは否定しない。街の角ごとに、一目惚れを拾ってきてしまうような男ではある。ご婦人がたには、たいてい手厚く寛大な態度でお迎えいただいたこともたしかだ。 (P8)

なんてことも言ってます。うぷぷ。

物語の発端は、偶然ルパンが見かけた紳士。大金を持っている紳士がとある屋敷にその金を隠したことを確信したルパンは、ちょうど売りに出ていたすぐそばの別荘を買い取り、知人に紹介された若い建築技師フェリシアンにその改装を頼む。

機が熟し、いよいよルパンが仕事にかかろうとした時、紳士の姪エリザベートが殺され、隠された大金も盗まれるという事件が起こる。夜にはエリザベートの婚約者ジェロームが襲われ、シモンという名の若者も瀕死の重傷を負って発見。フェリシアンに疑いがかかり、ルパンのもとに乗り込んできた謎の美女フォスチーヌは「あんたがやったんでしょ!あんたはアルセーヌ=ルパンよ!」と叫ぶ。

事件の謎解きにかかったルパンはほどなく、フェリシアンが自分の息子である可能性を知る。

蘇る過去の亡霊。「必ず復讐してやる!」と誓って去ったカリオストロ伯爵夫人の命令書。

子どもを盗人に、できれば殺人者にしたて、のちに父親と敵対させよ。 (P160)

果たしてフェリシアンは本当にルパンの子どもなのか。ジョゼフィーヌ=バルサモの怖ろしい命令通り、殺人者に育ってしまったのか。エリザベートを殺し、ジェロームやシモンを襲った犯人は一体……。

相変わらず息もつかせぬ展開で一気に読んでしまいましたが、今回ルパンはかなり翻弄され、自力で事件は解決できないんですね。フェリシアン、フォスチーヌ、そしてエリザベートの妹ロランドはルパンに心を開いてくれず、謎の核心に迫りきることができない。

まだ「息子かもしれない」とわかる前のセリフですが、せっかく助けてやろうと思っているのにフェリシアンにだんまりを決め込まれたルパン、こんなことを言います。

「きみほどの年になったら、こんどのような苦境にあっても、自力できりぬけられなくてはいけないものな。なにか悪事をしたというのなら、しかたない。もし無実なら、きみの人生のうち、いつか償われるときがあるさ。」 (P68)

「息子かも」と思うようになってからも、ルパンはフェリシアンの人物像、本心がつかめずいらいらします。そして、「息子だったからといって距離を縮めようとも思わないな」と。

フォスチーヌと仲良くしてるフェリシアンを見て激しい嫉妬に駆られたり、ルパンはあくまで「男」で、「親」という立場にはなかなかなれないみたい。ホントに街の角ごとに一目惚れ拾っちゃうんだからねぇ(笑)。

今作には、ルパンの出てこないルパン全集、23巻『赤い数珠』での活躍が記憶に新しいルースラン予審判事も登場します。

『赤い数珠』の登場人物だったボワジュネとルパンが友達、なんていう言及も。

ルースラン氏は今回も大変いい味出してくれてて、しかもルパンをして「たいした男だ」と言わしめるだけの頭脳と懐を持っています。

いやホント、ルースラン氏っていい人なのよねぇ。うん、好きだわ。

最後、事件の真相をルパンから聞いたあと、ルースラン氏は思う。

(こんなに上品なのに、性根はあくまでも泥棒なんだ。この男は一生、人を救い続けるだろう。だが一方で、他人の財布を失敬する機会があれば、けっして自分をおさえないだろう。帰るときには、握手をすべきかな) (P299)

そんなルースラン氏の内心の思いを感じながら、ルパンは話す。

「私の望みはですね、死んだとき、〈あれは、いい男だったな……まあ、悪事も働いたんだろうが、いい男だったよ〉といってもらうことなんです。」 (P299)

ルースラン氏はルパンに握手を求め去っていく。いやぁ、大人ですわ。

うん、ルパンシリーズの面白さっていうのは、こういう「大人の粋さ」が堪能できるところだよねぇ。

 

ついに、最終巻!

ついに、ルパンともお別れ!!!

うぇーん。

そんな記念すべき最後の冒険なのですが、あまり面白くなかった……。

アメリカとフランスを結ぶ航路、オラース=ベルモンという変名、待ち構えるガニマール刑事、などルパンが初登場したお話『ルパン、逮捕される』を思わせる演出は心憎いんだけど、事件そのものはなんか、微妙。

ルパンがこれまでにため込んだ数十億という金を横取りしようと企む秘密結社。その結社と関わりのあるアメリカ人女性パトリシアを守りつつ、ルパンは自分の財産を守ることができるのか――という話なんだけど。

なんかルパンがかなりバカになってる気がする。なんか、翻弄されちゃって。

いや、もちろん最後には勝つし、今までだって「無敵」といいながら途中は翻弄されまくりっていう展開が多かったんだけど。

なんかこう、ルパンの知力を堪能する部分がなかったなぁ、って。色ボケしてるシーンばかり多くて…。

いや、もちろんそれだって何も今に始まったことじゃないし、美女との恋の駆け引きはルパンシリーズの魅力の一つだってわかってはいる。でも今回ルパンは自分で言ってるんだよ。

「それに、どんな女ももうたくさんだ!色恋もたくさん!恋の征服もたくさん!小さな青い花もセレナーデもたくさん!月の光もうんざり!なにもかも、うんざりだ!ああいうものは、みんなやりきれない!」 (P78)

何が「どんな女ももうたくさん」よ。その舌の根も乾かぬうちにパトリシアにメロメロになってんじゃん。

そもそも『虎の牙』でめでたく結婚した彼女、フロランスはどうしたの???

年譜によると『虎の牙』がルパン45歳頃、この『最後の冒険』が50歳頃。まだフロランスと結婚してたった5年。そりゃああのルパンが一人の女性だけといつまでも仲むつまじくおしどり夫婦やってるとは思いませんけど、でもフロランスのフの字も見えなくて。ビクトワールと二人暮らしになっちゃってて。

『カリオストロの復讐』も今作とそう違わない時期の話だけど、フロランスの影はまるでなかった。そしてルパンは当たり前のように謎の美女フォスチーヌに熱を上げとった。

さっさと別れちゃったのかなぁ。ああフロランスフロランス。

50になっても落ち着くどころか、のルパン。ビクトワールが眠っている彼の寝顔をうっとり見ながら「なんて若く見えるんだろう、もう50まぢかだなんて信じられない」と言うと、がばと飛び起き憤慨する。

「もうおれは三十もとっくにすぎている……それがわかってるくせに、なぜくだらん数字なんかならべておれを傷つけるんだ?」 (P77)

年を気にしているらしい。そして「三十」からあとは数えたくないらしい。私といっしょね、ルパン(笑)。

しかしルパンが50歳ならビクトワールは一体何歳なんだろう? 乳母として子どもの頃からルパンの面倒を見てきたビクトワール。イメージとして割と最初から年配の女性だったんだけど、実はあの頃はまだ若かったのかしら。でないともう90歳とかになっちゃうよね。

ルパンに「これこれのことをするように。俺が連れて行く人間を守ってやるように」と指示されたビクトワール、答えて曰く。

「わかったよ。じゃ、さようなら。あんた、うまくやんなさいよ。いいえ、注意も質問もお説教もいらないよ。わたしゃ、もう、いのちをかけちまってるんだからね。それは、あんたもよく知ってるだろ!じゃあね!」 (P139)

さすが伊達に50年もルパンの乳母やってない。ビクトワールかっけー!

『バーネット探偵社』他でいじられ役だったベシュも出てきますが、ほとんど名前だけ。ガニマールもそう。

ガニマールって、全集の後半まったく出てこないからすっかり忘れてた。銭形警部ほどにはルパンの人生を彩っていない。

この第25巻には長編(というか、他の作品に比べると中編)『ルパン最後の事件』の他に、短編が二つ収録されています。

『山羊皮服を着た男』は「あれ、これって『モルグ街の殺人』じゃ?」と思ったらちゃんと最後にエドガー・アラン・ポーの名前が出て来て、ルパンが心憎いセリフを吐きます。

『エメラルドの指輪』の方は……なんかよくわかんなかった。女性の心理がよくわからない。んんん?

 

というわけで、最終巻なのになんか消化不良。「終わったぁ、ルパン万歳!」と叫べない。こうなったらもう一度最初に戻って……。

うん、実は今回「全集読破!」を掲げながら、最初の3冊は飛ばしちゃってるし、4冊目の『奇巌城』も集英社文庫版で読んでるから、1冊目から4冊目までは未読。

まだまだルパンを楽しめる!?

2012年1月23日 (月)

『特捜班ビクトール』『赤い数珠』/モーリス・ルブラン

ルパン全集22巻目『特捜班ビクトール』。

「特捜班のビクトールがついにルパンを逮捕した しかし―― アルセーヌ=ルパンを名乗ってしとめられた男の正体は? そしてビクトール刑事とははたして何者なのか? 謎につつまれた国防債権の盗難事件を発端としてくりひろげられる波瀾万丈の推理劇」

って、カバー見返し部(だと思う。図書館の本なので文章部分だけが切り取られて貼られてるんだけど)に書いてある。これ、すんごいネタバレだよね。こんなふうに書いてあったら「つまりビクトールがルパンなわけね」ってバレバレやん(笑)。

しかも「ついにルパンを逮捕した」って、逮捕するの本当に最後なんだよ。本文300ページ中280ページとかその辺。

それが表紙開けたらいきなり「ルパンを逮捕」ってあんた。

まぁもちろんそれがわかっていても楽しめるのがルパン。楽しませてくれるのがルブラン。

ビクトールは、「一筋縄ではいかぬつむじまがりの老刑事で、〈気の向いた〉ときだけ、それも道楽はんぶんで仕事をするというので、そのふうがわりな仕事ぶりや天邪鬼な態度が、なんども新聞紙上で指摘されたものだ」と紹介されて登場する。

そしてふらりと入った映画館で鹿の子色の髪の美人に目を奪われる。

もうこの、「すぐ美人に惹かれて後をつけようとする」ところで「実はルパン」を白状してるようなもんですが(笑)。

とある男が「泥棒!その女をつかまえてくれ!」と叫んだことで、ビクトールは美人の尾行を諦め、泥棒とそれを追いかける男の方に注意を振り向ける。それがビクトールが「国防債盗難事件」に関わるきっかけで――。

この盗難事件自体、二転三転、しかもアリバイ崩しがおフランスというかちょっと赤面な感じで面白いのだけど、そこに見え隠れする例の「鹿の子色の髪の美人」。実は彼女はアルセーヌ=ルパンの愛人らしいということで、ビクトールは変装して彼女に近づいていく。

「絶対ルパンを捕まえてやるぞ!」というビクトール。いやいやいや、ルパンはあんただよね?と思いながらもその絶妙な描写に「やっぱり違うの?」と思わされたり。

変装のうまさも、その態度と言葉で一瞬にして人を支配下に置くその“カリスマ性”も、「あなたこそルパン!」なんだけども。

最後の最後、ついに真相が明らかになるところでは「やっと来たーっ!」というカタルシスが。

「ルパンの愛人」と噂されていた美人さんは見事「本物のルパン」といい感じになるし、最終ページのオチがまたね。おフランスですわ~。

しかし「特捜班」ってなってるけど、ビクトールはどう見ても一人なんだよね。チームでは動いてない。刑事らしからぬビクトールのやり方に協力してくれるラルモナ刑事はいるけど、「班」というイメージではない。

「右京さん一人でも特命係」みたいなもんなのかしら(笑)。

当時のパリの警察機構はたびたび変わったみたいだし、外国の部署・役職名を日本語に置き換えるのはなかなか難しいのでしょうね。

『ジェリコ公爵』に続いてルパンが登場しないルパン全集『赤い数珠』。

お話自体は面白かったけど、やっぱり「ルパン全集」だけにルパンの登場を期待してしまう。「もしかしてこの好色なおっさんがルパン!?」とか思いながら読んでしまったぢゃないか…。途中から「あー、これはもしかして出てこないパターンか」って諦めて純粋に謎解きを楽しみましたが。

この「ルパン全集」にはルパンが出てこない「別巻」が5巻あるから、『ジェリコ公爵』と『赤い数珠』も別巻扱いにすればいいのに。

他社でも「ルパンシリーズ」ということで出版されているようで、日本に紹介された時からこの2作は「ルパン物に含める」という伝統になっているのかもしれない。うーん。それってどうなの。

さて。

狩猟解禁に合わせドルサック伯爵の屋敷に集まった招待客たち。そのうちの一人、美しい人妻クリスチアーヌに伯爵は夢中。もちろん伯爵は既婚者で、客のもてなしは妻であるリュシアンヌが仕切っている。

その夜、川をライトアップするという余興を見物に行った客達が戻ってみると、伯爵の金庫から株券が盗み出され、一人館に残っていたリュシアンヌが殺されていた。手にした数珠は赤い血にまみれて――。

というわけでタイトルが『赤い数珠』。

翌朝駆けつけた予審判事ルースラン氏の捜査方法というのがなかなか変わっていて、彼は自分では捜査はしない。もちろん足跡があったかなかったか、など必要な情報は部下に集めさせるし、まったく推理しないわけではないんだけど、彼は「当事者達に真相を暴かせる」。

しかも痴情事件が好きで、「のんびり釣りができなくなるから昇進なんてごめんこうむる。わしの考える理想的な事件は“握りつぶせる事件”だ」な~んて言っちゃう。

「痴情事件では、尋問は最少限ですむ。ほんのわずか質問するだけで、憎しみ、怒り、復讐など、ありとあらゆる本能や感情のからくりがひとりでに動き出す。あとは耳を貸すだけでいいんだ。(中略)自分で自分の尋問役を買って出て、当人には意外であっても、ひとりでに不明な点があきらかになり、たがいに相手をかばいあい、自分を守るすべも知らん役者なのさ」 (P107)

なるほどねー。

そして今回の事件にも色恋沙汰が絡んでいる。そう、美しい人妻クリスチアーヌに熱を上げている館の当主ドルサック伯爵。彼にはもちろんクリスチアーヌの夫が邪魔だし、自分の妻リュシアンヌだって……。

「まぁ、考えてもみたまえ、この目の前の人たちは、われわれにとって、まったくの赤の他人だ。とつぜん、われわれの前にあらわれでたというのに、こっちは無実かどうか見きわめなくちゃならん。行為の動機を見つけださにゃならんのだ。おまけに、われわれには、この人たちの心理状態も、趣味も、習慣も、過去も、遺伝的な性格も、なにもかもわかりゃしないときた」 (P120)

一目で相手の職業や家族構成などなどを見抜いてしまうホームズならいざ知らず、普通の人間には確かに当事者達の人間関係を把握するだけでも大変だよね。

「さよう、ふつうはべつべつに尋問して、そのあいだのくいちがいを見つけようとする……ところが、わしときたら、たがいに直接ぶつかりあってくれるのが好きなんだよ。みんな考える時間がないだけに、かえって、真相の光を容易にほとばしりだすものさ」 (P121)

もちろんルースラン氏の質問は的確で、うまくみんなを誘導していくわけだけども、結果的に真相を暴くのはクリスチアーヌで、そこに至るまでの当事者たちの嘘、その翻し、秘密の開示、なんとも見事に「勝手に事件が解決していく」。

この作品はルブラン70歳の時のものだそうですが……いやぁ、ルブランさんホントすごいなぁ。手に汗握る冒険物だけでなく、こんな一風変わったミステリまで。

もっとも、美女が鍵なのはルパン物と共通。これはルブランさんの好みというより「フランスだから」なのかしら???

ドルサックがクリスチアーヌにつきまとって、あげくソファに押し倒すシーンなんかもう超セクハラっちゅうかエロ親父のストーカーで、読んでてうぇぇってなっちゃったよ。

あまりのことに困惑してクリスチアーヌが瞬間抵抗をやめてしまったのを見て「ほら、やっぱりおまえにもその気があるんじゃないか!」とかホントに、男ってなんでそう自分に都合良く考えるかな。

しかもルースランまで最後、「あの女はあの男を愛していた」なんて言うんだよ。いくら憎しみと愛が表裏一体の感情だとしたって、それはないんじゃないのぉ。

そこ以外は面白く読めました。章立てが「プロローグ」「夜」「朝」「午後」「エピローグ」と実にシンプルなのもいい。

 

いよいよルパン全集もあと2冊! ちゃんとルパン出てくるよね?(笑)

2012年1月 9日 (月)

『バール・イ・ヴァ荘』『二つの微笑をもつ女』/モーリス・ルブラン

ルパン全集もいよいよ20巻目。まさかのみたびベシュ登場です!

『バーネット探偵社』でルパン扮するジム=バーネットにいいように遊ばれていたベシュ刑事、『謎の家』でも活躍(?)し、さらにこの『バール・イ・ヴァ荘』でも。

全集19巻の『ジェリコ公爵』は実はルパン作品ではないから、ベシュ刑事は3作連続で登場しているんですね。ルブランはよほどこのキャラクターが気に入っていたのでしょうか。

『謎の家』から2年も経っていない、という設定。

ジム=バーネットでもなくジャン=デンヌリでもなく、ラウール=ダブナックと名乗っているルパンのもとに謎の美女カトリーヌが訪ねてくる。と同時にベシュから電話がかかってきて、最初ルパンは「あんたのことなんか知らない」と言うのだけど、ベシュの方は「おまえがルパンだってことはわかってるんだ」と答えるのみならず、なぜかベシュはルパンのアパルトマンの鍵まで持っている!

そのベシュの鍵をこっそり盗んで、カトリーヌはルパン=ラウールの部屋を訪れたのですね。

『謎の家』事件の後ルパンとベシュは会っていなかったようなのに、変名や居場所を知っているのみならず鍵持ってるってどーゆーこと? ベシュ、ルパンのストーカー!?(笑)

「夜中にいきなり美人が部屋の中にいる」という演出のためにベシュが鍵を持たざるをえなかったのかな、と思いますが、ともあれ今回もどんどんサクサクと読み進んじゃいました♪

カトリーヌとその姉ベルトランドが祖父から相続したバール・イ・ヴァ荘。

敷地内の三本のヤナギがなぜか植え替えられていたり、かつて屋敷で働いていた婆さんに「殺されるよ」と警告されたり、怖くなってカトリーヌがルパンのもとを訪れたあと、ベルトランドの夫が殺され、たまたまその地に滞在していたベシュとともにルパンが謎解きにとりかかる。

祖父の遺した遺産をめぐる陰謀、そしてその「遺産」の正体は――。

もちろんルパンは美人のカトリーヌに惚れ、その姉のベルトランドにも惚れ、そしてもちろん美人姉妹二人の方もルパンに心を奪われてしまい。

実の姉妹と三角関係とかどーすんの、ルパン。どーもしないで二人とも好き♪三人で楽しく過ごそう♪などと思っていたルパンは事件解決後、あっさり二人に去られてしまいます。「あなたがどっちも選べないなら、私たちはあなたのもとを去るしかありません」。

二兎を追う者は一兎をも得ず。

日本には君にぴったりなことわざがあるよ、ルパン。

「でも、ほんとうに人を愛するというのは、そういうものではありません…(中略)わたしたちは、虚勢も嫉妬心もなしに、あなたの決断を待っていた。でも、いまでは、決断なんてないことを、わたしたちは知っています。あなたはいつまでも、わたしたちを同じように愛することでしょう。だから、わたしたちの決断をお伝えしにきたんです。あなたのほうが決断をくだすことができなかったんですから」 (P289)

女はそれを我慢できないんだよ。「二人とも同じくらい愛してる」なんていう、たぶん男にとっては変でもなんでもないことを。

「わたしを愛してくださるなら、ベルトランドより愛してくれなくてはいけないのに、そうではないんですから」 (P290)

「愛」っていうのは厄介なものだね。たった一人、自分だけをと望む。

まぁ男も最近はそれを我慢できなくて恋人のケータイから男性のメルアドを勝手に全部消すとかやっちゃうみたいだけど、でも相手にはそれを要求しながら自分は別に一途じゃないようなところが男にはありませんか…? どっちもどっちなのかな。

ともあれ二人に去られ、ベシュに八つ当たりするルパン。自業自得やーん(笑) 可哀想なベシュ。

でもこんなラスト、たまにはいいです。ルブランさんホントうまい。

ボートは音もなく川面をすべった。こまかく動くオールから、水滴が落ち、涼しげなささやきを奏でている。星空からぼんやりした光がそそがれていたが、地上の霧のあいだから、いつのまにか月がのぼって、すこしずつ明るさをましていた。 (P191)

トリックや冒険だけでなく、ルブランさんってこういう描写もうまくて素敵なのよね♪

ベシュのルパンに対する複雑な、反発しながらも惹かれているところとか。

「そして、きみが登場するわけか!」と、ベシュが、ラウールに話しかけるときにときどきみせる、絶対的といってよいほどの感嘆の口調でつぶやいた。 (P277)

ベシュとルパンのこんなやりとりも。

ベシュ「ほかになにが必要だったというんだ?」
ルパン「たいしたものじゃないけどね」
ベシュ「いったい、なんだ?」
ルパン「天才さ」
 (p285)

だから好きよ、ルパン♪

うーん、こちらはそれほど面白くなかったなぁ。

『ルパン』全集ずっと読んできて、初めて「読むのめんどくさい」と途中で思った(笑)。

それは図書館への返却期限が迫ってたこともあるし、最初に後ろの解説読んじゃってネタバレしてたこともあるし、またしてもルパンが女に惚れて仕事するだけだったこともある。

なぜその女が『二つの微笑をもつ』なのか、それも「え、これって実は二人いるってことなんじゃ?」と早い段階で推理できちゃったし。

ラウールことルパンのもとに突然現れた金髪の娘アントニーヌ。上の階の侯爵に用事があったのに、間違えて中二階のルパンの呼び鈴を押してしまった。愛くるしいその微笑に一発で惚れ込んじゃったルパン。

一方彼女を大泥棒グラン=ポールの愛人クララだと思って駅からつけてきたゴルジュレ刑事。もちろんルパンは彼女をゴルジュレの手から救ってあげる。

もともとルパンは侯爵の「失われた遺産」を調べるために中二階を借りていて、アントニーヌと侯爵の関係も気になるし夜中に侯爵の部屋へ忍び込む。そるとそこになんと当のアントニーヌも忍び込んできて――!

グラン=ポールの方も逃げた愛人クララを追っていて、そのグラン=ポールとクララをゴルジュレが追い、ルパンはクララ(アントニーヌ)にご執心。なので自然ルパンとゴルジュレも追いつ追われつ。侯爵の絡む15年前の「殺人事件」を背景に攻守入れ替わり立ち替わりの追跡劇。

最初にルパンの部屋に現れたアントニーヌの生き生きとした明るい微笑、クララの少し愁いを帯びた微笑。ゴルジュレもグラン=ポールも、そしてルパンもその二人を同一人物だと思ってるから、「二つの微笑をもつ謎めいた女」になってしまうんだけど。

別の女の子が二人いるんだよ、もちろん。

ルパンともあろう者が、そんな簡単なことに気がつかないなんて。

女の子の微笑に目がくらんでっからだよ!!!

ルパンはクララの方と長く過ごし、クララももちろんルパンに一目惚れしちゃってる。そして実はアントニーヌの方もルパンのことを……。どんだけモテるんですかねー、ほんま。

でもひどいんだよ、ルパン。最終的にルパンはクララと一緒にいるのに、「クララを愛するのはあなた(アントニーヌ)を愛しているからです」って。

それをわかっていたからこそクララはアントニーヌのふりをしたんだよね。同じ娘だと思わせようと。

最後までクララは「恋敵」アントニーヌのことを気にしているのに、ルパンは心の内で「アントニーヌ!アントニーヌ!」って。

いい加減この惚れっぽい浮気男には愛想が尽きました(笑)。

まぁいよいよあと4冊なんですけどね。愛想が尽きなくても終わっちゃうのだわ……。

解説でネタバレしちゃった殺人事件の真相、これはでもけっこう秀逸だよね。意外性というか、「そんなのあり?」というか。こういうネタも使っちゃうルブランさんはやっぱりさすが。

皆さんはぜひ解説を読まずにお楽しみください。

2011年12月 7日 (水)

『謎の家』『ジェリコ公爵』/モーリス・ルブラン

『バーネット探偵社』でルパンにおちょくられていた刑事ベシュがまさかの再登場!

ルパンはジム=バーネットではなく、ジャン=デンヌリという名前で登場するのですが、ベシュはもちろん彼をバーネットでありルパンであると見抜いて、「こんな奴信用しちゃダメですよ!」と言い、また最後には「逮捕してやる!!!」とも意気込みます。

もちろんルパンは逮捕なんかされませんけど。

ダイヤをいっぱい縫いつけたチュニックを着て舞台に登場していた女優レジーヌが誘拐され、とある屋敷でそのチュニックを奪われる。

続いて同じ舞台に出ていたお針子兼モデルのアルレットが誘拐され、同じように謎の屋敷へ連れ込まれるものの、なんとか逃げだし事なきを得る。

二人の被害者は謎の屋敷の石段の数や客間の調度を覚えていて、デンヌリことルパンの調べでその特徴がメラマール伯爵の屋敷と一致することが判明。伯爵は逮捕されるがしかし……。

女優レジーヌ、お針子アルレット、そして伯爵の妹ジルベルトと、三人の女性の心を一瞬で掴んでしまうさすがの女たらしルパン。でも今回の本命は貧しいお針子のアルレット。彼女には、基金を設立して自分と同じように貧しい生活をしている仲間達の暮らしをよくしたい、という夢があった。

メラマール伯爵の無実を晴らし、真犯人を挙げようとするルパンの前に現れた青年ファジュローは、巧みにアルレットに言い寄って彼女と結婚する約束を取り付ける。

「そんなバカな!あいつは絶対真犯人の一味なのに!!!」

後手に回るルパンはファジュローのしっぽを掴むことができるのか? そしてアルレットへの恋は……。

まぁホントに惚れっぽいルパンなんですけど、この作品、最初に「アルセーヌ・ルパン未発表回想録より」っていうちょっとした前書きがついていて、その中でルパンったら

「そのときどきの事情に応じて、名前や人柄を変えざるをえなかったことから、わたしはそのたびに、新しい人生を生きはじめるような思いがしたものだ。それ以前にはまだほんとうの恋を知らず、そのあとではもう二度と恋をすることはあるまいと痛感させるような人生を」

なぁんてぬかしているのですわ!

「まるで、そのさまざまの恋を経験したのは、自分自身ではなかったかのようだ」

さようでございますかっ(笑)。

まぁそれぐらいでないとこう次々に女の子に熱上げられないよねぇ。しかもルパンの場合決して「お遊び」というのでなく、その時はホントに本気で愛してるし、「彼女のためならたとえ火の中水の中」を比喩じゃなく実行して、命を賭けて救い出すから。

しかもそれを軽やかに、どんなピンチに陥っても自信と陽気さを失わず、鮮やかにやり遂げてしまう。

こんな男に惚れられたら、女は怖れつつも惹かれるしかない。

「怖れつつも」ってところがミソだよなぁ。ルブランは女心をわかっているし、しかも毎回出てくる女の子が確かに魅力的で、しかもちゃんとバリエーションに富んでる。

ルブランも「たらし」だったのかしら。それとも願望?(笑)。

途中でルパンが自分に向かって言うセリフ。

「おまえは危険が好きなのさ。戦いたがっているんだ。(中略)だが、なんといっても、大きな冒険に身をさらし、敵陣へのりこんで対決するってのは、こたえられんよ。武器も持たず、たったひとりで、くちびるには微笑を浮かべながら……」 (P224)

くちびるには微笑を、ってくだりがたまりませんなぁ。うぷぷ。

 

全集19巻目は『ジェリコ公爵』。

♪ぬすまれた過去を探し続けて~おれはさまよう見知らぬ街を~♪

主人公エラン=ロックは「過去をなくした男」。瀕死の状態で海を漂流していたところを助けられ、驚異的な体力で回復したものの、自分にまつわる記憶をすっかりなくしてしまっていた。

公園の名「エラン=ロック」を名乗る彼は偶然見かけた令嬢ナタリーに過去の光(「前にも逢ったことがある!」)を見て、彼女に近づく。海賊ジェリコの一味に狙われているらしい彼女を襲撃から守り、彼女の父の死にもジェリコが絡んでいると知った彼は「自分自身」を求めてジェリコの影を追っていくが……。

こうしてあらすじを書いただけで大方の予想はつくと思いますが、そう、実はエラン=ロックはジェリコその人なのです。

読者にはその可能性はけっこう早くから見えていて、でも当のエラン=ロックはそんなこととはつゆ知らず「悪党をやっつけるんだ!」と意気盛ん。

じわじわと証拠が集まりだし、外堀が埋められていくその「息詰まる」感じがたまらない。いつもながらページを繰る手が止まりません。

なんというか、その緩急、ノンストップでありながらうまく読者を焦らすそのバランス感覚がうまいんだよなー、ホントに。

エラン=ロックに惹かれつつ彼の及ぼす力を怖れるナタリーの乙女心描写も相変わらずお見事。

し・か・し。

ルパン出てこないよ。

エラン=ロックは大胆不敵で情熱的、他人を一瞬で支配下に置いてしまう不思議な力の持ち主で、確かにルパンを彷彿とさせる人物だけど、でもルパンその人ではない。最後に本名、生まれ育った館、老いた従僕とか出てきて、別人だということははっきりしているし、ルパンの「ル」の字も出てこない。人々の噂にさえ出てこないのだ。

これまでにもたったの2ページしかルパンが登場しない『オルヌカン城の謎』とか、ゲスト出演的な『金三角』とかあったけど、『ジェリコ公爵』は本当にルパンとは別の作品だと思う。

なぜにルパン全集に入っているのだ(^^;)

ルパン全集、「別巻」としてルパンシリーズ以外のルブランの作品を収めてあるから、そっちの枠で良かったんじゃないかとも思うんだけど、そうすると本編24巻+別巻6巻でなんとなくキリが悪いような気がしたのかしら……。

ところでこの作品の原題は『Le Prince De Jericho』。「プリンス」と言われるとすぐ「王子様」と解釈してしまうんだけど、公爵・大公の意味もあるのね。「プリンスという言葉は帝政ローマの指導者、つまりローマ皇帝を指すプリンケプスに由来している」…ふむふむなるほど。

あ、そーだ。最後にこれだけは言っておかなきゃ。

エラン=ロックの正体である青年の帰りをずーっと待ち続けている婚約者の女の子に対するあの仕打ちはないんじゃないの、ルブラン! 彼を待ち続けたあげく家は傾き婚期は(たぶん)逃し……。「一番に君のもとへ帰ってくるよ」と約束しといて彼女より美人なナタリー連れて戻るってエラン=ロック!

確かに君はルパンかもしれない……。

2011年11月18日 (金)

『緑の目の令嬢』『バーネット探偵社』/モーリス・ルブラン

『緑の目の令嬢』では、ルパンは34歳。『カリオストロ伯爵夫人』の時と同じ、ラウールと名乗っています。もっともラウール=ダンドレジーではなく、ラウール・ド・リメジー男爵と。

町で偶然見かけた青い目のイギリス人美女に惹かれ、彼女がいけすかないポマード男に尾けられていたこともあって、ラウールもまた彼女の後を追う。

するとそこにもっと魅力的な緑の目の令嬢が現れ、ルパンはさっさとそっちへ鞍替え。おいおい、ルパ~ン!

でも緑の目の令嬢の方は見失ってしまって、「じゃあしょーがねぇな、最初のイギリス人美女で我慢するか」というわけで、彼女と同じ列車に乗り込み、ずうずうしくも同じコンパートメントに入り込む。

しかし敵もさるもの、「あなたずっと私の後つけてたでしょ?緑の目の女の子の方が良かったけど、見失ったからしぶしぶ私の方へ来ただけでしょ」と全部見透かされている(笑)。

しかも彼女ミス・ベークフィールドはラウールの帽子に縫い付けられた「H・V」というイニシャルを見て、「オラース・ベルモン、アルセーヌ・ルパンの偽名の一つね」なんてこともしゃらっと言ってのけてしまう。

おおお、この女なかなかやるじゃないの!と思ったら。

彼女の出番はここでおしまい。

その夜、列車に3人の暴漢が現れ、彼女は殺されてしまうのです。ラウールも縛り上げられ、別のコンパートメントで2人の男が殺され、そして逃げていく犯人の顔をちらっと見ることのできたラウールはびっくり仰天。

「あれは緑の目の令嬢じゃないか!」

冒頭部でぐいぐい読者を引っ張っていくこの展開、ルブランさんはホントにうまいです。

緑の目の令嬢オーレリーはあえなく警察に捕まってしまうんだけども、そこはもちろんルパンが救い出し、抱っこして逃げてる時に「可愛いなぁ」と思わずその唇にチュッとしてしまう。

「なんていやらしいことをするんです!なんてはずかしいことを!」

ばちん!と殴られはしなかったものの、オーレリーはルパンの腕をすりぬけ、一人でどこへともなく逃げていってしまうのでした。

あーあ。

アホや、ルパン(笑)。

「キスの思い出に賭けて彼女を守る!」と誓ったルパン(こんなこと平気で言ってのけられるのあんただけよねー)は二度三度とオーレリーをピンチから救い出し、最後には彼女の愛を得る。

というか、最初からオーレリーはルパンに惹かれていたのだ。惹かれるがゆえに怖れ、離れようとしていた。これって『虎の牙』のフロランスと同じパターンじゃ(^^;)

惚れっぽいだけでなく、「惚れられっぽく」もある色男。いやはや。

何度も助けられ、「この恩は一生かかっても返せそうにない」と言うオーレリーに「ほほえんでみたまえ、そしてぼくを見つめてみたまえ」というルパン。

「これで君は借りを返した」 (P304)

とか、

(まるであなたの唯一の使命であるかのように、いつのときでもわたしを救ってくれるラウール、あなたはだれなの? あなたはだれなのかしら?)
「青い鳥だよ。おとなしく人を信頼する娘たちに幸福を与え、人食い鬼やわるい妖精から彼女たちを守ってやり、彼女たちを自分の王国へつれていく仕事をしている、青い鳥なんだ」
 (P352)

よい子は決して真似しないでね!(笑)

こんな台詞を言ってもいいのは世界中でただ一人、「未亡人とみなしごの守り神」ルパンだけだから!

でも結局オーレリーはルパンのもとを去っていく。

「いいえ、ラウール、あなたは永久に愛するようなかたじゃないわ。残念なことだけど、ながいあいだ愛することさえしないはずよ」 (P369)

ですよね(爆)。

賢明な選択だと思います、オーレリー。

とまぁ、ルパンの「たらし」っぷりが堪能できるお話なわけですが、最初の列車内の殺人の真相は「あ、そうか!」と思わせるものだし、事件の根っこをなしているオーレリーに遺された秘密の財宝も、壮大で素敵。

そしてイギリス人美女を追いかけていたいけすかないポマード男(実は国際捜査部の警視)マレスカルの存在。オーレリーにまとわりつき(彼も彼女に惚れていた)、彼女が自分になびかないからといって「復讐してやる!絶対牢獄送りにしてやる!」などと公私混同、ホントにうっとうし男なのだけど。

このマレスカルを徹底的におちょくるルパンの一言、「火を貸してくれないか、マレスカル」。

変装していても、まさかそんな場所に登場するわけがなくても、「火を貸してくれないか、マレスカル」という一言が「相手はルパンだ!」とマレスカルの心胆を寒からしめる。

特に最後の「後日譚」のところ、うぷぷ、となります。ルパンみたいな男に目を付けられたら最後だねぇ、ホント。

それにしても。

美人で頭も良く魅力的なミス・ベークフィールド。「緑の目の令嬢」の前座にしておくにはあまりにももったいなかった。ご冥福をお祈りいたします。

続いては『バーネット探偵社』。

ルパンがジム=バーネットという名前で探偵社を開業。調査費は無料! ただし……。

『八点鐘』と同じく8つの連作短編集になっていて、今回のルパンの相棒はベシュ刑事。手に負えない難事件が起こるとバーネットのところへ駆け込んでくるんだけど、バーネットが「調査費」ではない別の「実費」を頂戴していることを知るにつれ、「もうおまえには頼まないぞ!」という気分になってくる。

でも頼まなくても登場してしまうのがルパン。

ベシュ刑事をおちょくりながら軽やかに事件を解決し、その代償として最後にはベシュの元奥さんまでちゃっかり頂戴してしまう。

それぞれの事件の「仕掛け」もミステリーとしてよくできてるし、エスプリの効いた肩の凝らない短編集になっています。

でもやっぱり相棒が美女の『八点鐘』の方が楽しいか(笑)。

事件の謎を解く肝心要の時はもちろんルパンのかっこよさが出てくるけど、普段の「バーネット」は見た目も性格もそんなに「いい男」には描かれてないしね。

最後にベシュ刑事がため息をついて思う言葉。

「たいせつなのは無実の人が勝って、わざわいがとりのぞかれ、犯罪がなんらかの形で罰せられるということではないだろうか。だから、いつも事件の最後に、悪事を働いた連中や罪を犯した人たちに損害を与える、バーネット流のやり方に、目くじらたてる必要がはたしてあるだろうか。」 (P263)

このままバーネットと一緒に仕事をしていたら自分の「職業的良心」があやしくなってきそうで心配だ、とベシュは金輪際バーネットとは会わないと決める。

さんざんおちょくられっぱなしでいいところのない可哀想なベシュだけど、彼は良心的で実直な、十分に「いい警察官」で、ルパンのやり方に諸手を挙げて賛成するわけにはいかないんだよね。

そしてたぶん、それでいい。

「必殺仕事人」が悪者を懲らしめるのに「お金を取る」のも、「俺たちは正義じゃない」ってことを肝に銘じるため。

「みなしごと未亡人の守り神」ルパンは正義感に溢れているけど、でもやっぱり表舞台には立てない「裏稼業」。だからこそ日常の枷にあえぐ平凡な一般人にはたまらなく魅力的なんだよね。

「もうおまえとは会わない」と言うベシュに、「きみの心配(職業的良心があやしくなりそうだ、という心配のこと)はよくわかるよ。りっぱな心がけだ」と返す。

粋だね、ルパン。

2011年11月 2日 (水)

『八点鐘』『カリオストロ伯爵夫人』/モーリス・ルブラン

子どもの頃、ルパン物の中でも特に好きだった『八点鐘』。

しかし例によって例のごとく、ほとんど覚えていませんでした(^^;)

大時計が8時を打つ、そして8つの冒険…ということしか。

レニーヌ公爵と名乗るアルセーヌ・ルパンと人妻オルタンスを主人公にした連作短編集。短編ならではの粋さが光ります♪

最初のお話「塔のてっぺんで」で、止まっていたはずの古い大時計が8時を打ったのをきっかけに、ルパンはオルタンスにこう申し出ます。

「3か月後の12月5日、あの大時計が8時を打つ瞬間までに、八つめの冒険をはじめて、そして終えることができたなら、ぼくの願いを聞いてください」と。

その「願い」というのは「あなたの唇」なんですけど、もちろんルパンはそれを口に出して言ったりはしません。まなざしだけで伝えなくっちゃ、野暮ってものです。

オルタンスは未亡人ではなく、夫はまだ生きてるんだけど、ちょっと精神に問題があるらしく、病院に入れられている。そして彼女は離婚もできず、物語の冒頭では彼女に心を寄せる男と駆け落ちを計画していたりする。 でもルパンに「あんな男よりぼくと冒険しませんか?」って言われたら、そりゃルパンの方が何百倍も魅力的なわけです。

前作『虎の牙』でめでたくフロランスと結婚したルパン。おまえもう浮気かよ!?と思ってしまいますが、『八点鐘』のルパン=レニーヌ公爵は『虎の牙』よりかなり若いようです。

Wikipediaに年譜が載っていますが、『八点鐘』は『奇巌城』の2年後で『813』の2年前、『虎の牙』からは9年も前のお話ということになっているそうです。36歳、男盛りですね~♪

もともとルパンは意外に盗みを働いてないんですけど、この連作では本当に怪盗ではなく「名探偵ルパン」。

密室殺人や雪の上の足跡のトリックを暴き、謎を解くことによって無実の罪をきせられた人間を助け、引き裂かれそうなカップルを結びつけてあげます。

長編のあのたたみかけるような展開と筆力も素晴らしいのですが、ルブランという人は短編のアイディアも見事です。

8つの冒険、それぞれに面白いですが、今回特に興味深いと思ったのが「ジャン=ルイ事件」。

これ、別に殺人事件でもなんでもなく、「トリック」でもない。むしろトリックを仕掛けるのはルパンの方で、「嘘も方便」という言葉の意味を思い知らされるような。

「たいせつなのは、目的を果たすことです。そのための手段が多少おかしくても、どうってことはありません」 (P246)

縁もゆかりもないカップルの幸せのために1万フランも使って「嘘」をつくんだもの、ルパンって人はホントに。 しかもこの「ジャン=ルイ事件」という短編の締めはこんな台詞。

「ああよかった、もっと笑ってください、オルタンス。笑っていたほうが、涙を流しているよりも、ものごとはよく見えてきます。それに、あなたには、できるだけたくさん笑っていなければいけない理由もあるんですよ」 「どんな理由?」 「だって、そんなに美しい歯を持っているんですから」 (P246-247)

うぷぷぷ。 こんなルパンに目をつけられたら、女は降参するしかありませぬ。

8つめの冒険を怖れ、レニーヌ公爵の「願い」をかなえることを怖れるオルタンス。でもやっぱりルパンの魅力に抗うなんて無理!

「しかし、もうひとつ、ふたりには別の冒険が残っていた。(中略)そのもうひとつの冒険とは、どんな冒険よりもあまく、はげしく、すばらしい、恋の冒険だった」 (P381)

きゃー、もう、イヤっ、ルブランったら(//∇//)!!!

子どもの頃好きだった理由が改めてわかります。粋でお洒落でロマンチックな冒険譚。やっぱり私はホームズよりルパン!

でもオルタンス、人妻なんですけどぉぉぉ。

「それこそ人生というものです。ものごとをよく観察し、さぐろうとする心があれば、人生は変わります。冒険はどこにでもあります。(中略)したいと思えばいたるところに、感動したり、人のためになるよいことをしたり、しいたげられたものを救ったり、悪をくいとめたりする糸口がころがっているんですよ」 (P54)

さてお次はさらにルパンが若返る『カリオストロ伯爵夫人』。

カリオストロというと『ルパン三世』を思い出す人も多いかと思います。

図書館の書庫に眠るルパン全集、なぜかこの巻だけずいぶん新しい(初版82年で他の巻はほぼ当時のものなのに、これは97年の刷)のも、アニメ「カリオストロの城」に惹かれて借りる人が多く、くたびれるのが早かったからかもしれません。あまりにもボロボロになったので買い替えた、と……(違うかな?)。

しかしアニメの「原作」を期待して手に取った人々には肩すかし。

まぁ「伯爵夫人」と銘打ってあるところで、これが「カリオストロの城」とは別の話、というのはわかりそうなものですが。ルパンだって「三世」じゃないんだしね。

でもクラリスは出てくる。

まだ二十歳くらいのルパンが惚れて結婚を申し込む相手として。

もちろんこの作品のクラリス嬢は「おじさま!」とは言いません(笑)。

若き日のルパン。いえ、まだ彼はラウール=ダンドレジーと名乗る小悪党。「怪盗紳士アルセーヌ=ルパン」にはなっておりません。ダンドレジーは母の姓。ルパンは父の姓。

デティーグ男爵の娘クラリスに恋をして、男爵の屋敷に忍び込んだルパンは、そこで男爵一味が謎の女「カリオストロ伯爵夫人」を私的な裁判にかけ、殺害しようとするところに出くわしてしまう。

その女の美しさに惹かれ、また、若い頃から「盗みはしても殺しはしない、殺人は許せない」というポリシーを持っていたルパン=ラウールは小舟ごと海に沈められようとしていた彼女をひっそり助け出す。

男爵一味とその女、カリオストロ伯爵夫人ことジョゼフィーヌ=バルサモは中世の修道院が隠した財宝を手に入れようと争っていた。

「秘められた財宝」――こんな言葉がルパンの心を躍らせないはずがない。

「俺ならその謎が解ける!」 若くてもルパンはルパン。まだ誰も知らない小悪党でも、その自信と大胆不敵さはもう十分に育っている。

ジョゼフィーヌと愛し合い、時に協力し、時に互いに出し抜きあいながら、三つどもえの「財宝探し」の結末はさて――!

まぁなんというか、若い時から惚れっぽさも変わってません、ルパン。 クラリスのところへ夜這いに行ったその足で、ジョゼフィーヌの美貌にころっとイカれちゃうんだもんなぁ。もう、ホントに男ってやつは(笑)。

わかるんだけどね。

ジョゼフィーヌは美しいだけでなく、謎めいている。100年以上生きてる、なんて話も出てくるし、男爵一味に囚われて罪状を数え上げられ、糾弾されても平気の平左。ルパンと同じく自分の力量に自信を持ち、知力も行動力も執念も、男達に負けてはいない。

ルパンに愛され、彼女もルパンを愛するようになり、けれどそれと「財宝」を手に入れることとは別で、時にルパンを痛めつけ、出し抜くことを厭わない。 恋はしても、決してすべてを委ねたりしない。主導権を譲ったりしない。

魅力的な女なんだよ。悪女だけど、だからこその「煌めき」がある。

「盗賊」としては先輩の彼女と出会ったことで、彼女という「学校」で学んだことで、ラウール=ダンドレジーはアルセーヌ=ルパンへと変貌を遂げていく。

ルパンにとって、ジョゼフィーヌ=バルサモはファム・ファタル(運命の女)だった。

彼女と出会わなければ、「ルパン」は生まれなかったかもしれない。

ある意味似たもの同士の二人は惹かれあって、でも互いの強烈な個性ゆえに愛は愛にとどまらず、憎しみと表裏一体になる。そしてジョゼフィーヌが「殺しを厭わない」ことが、決定的な破局になる。

「殺し」だけは許せないルパン。

罪のない老婆の指が拷問によって潰れているのを見て、ルパンはジョゼフィーヌのやり方に怒りと嫌悪を感じる。

ジョゼフィーヌと袂を分かち、クラリスのもとへ戻ろうとするルパン(なんちゅー勝手な男や!)

しかし本気でルパンを愛してしまっていたジョゼフィーヌはもちろんそんなルパンが許せず、クラリスへ魔の手を伸ばす。ルパンの心はますます離れていく……。

この巻ではルパンが勝利を収めるのだけど、しかしジョゼフィーヌも諦めない。「必ず復讐してやる!」

その言葉通り、ルパンとクラリスとの間に生まれた息子がさらわれ、四半世紀もの時を超え、全集24巻『カリオストロの復讐』へと続いていく。

「そして、それらのかがやかしい光芒にみちた四分の一世紀以上の時空をへて、今回のルパンの最初の冒険が、こんにちルパン自身が最後の冒険と考えたがっているものに結びつくのであった。」 (P436)

最初の、男爵達によるジョゼフィーヌの裁判部分が長すぎて少々退屈したのと、「敵」である彼女とルパンが一緒に行動していて「たたみかけるような展開」というよりは二人の「心理戦」のような感じもあって、これまでの長編に比べるとわくわくドキドキ感が少し薄かったのだけど、でもどんな「復讐」が待っているのか、ジョゼフィーヌがどんな再登場をしてくれるのか、24巻にたどり着くのが楽しみです。

2011年10月20日 (木)

『三十棺桶島』『虎の牙』/モーリス・ルブラン

ルパン全集も11冊目まで来ました。

と言っても、全集で読み始めたのは5巻からだったりしますが(^^;)

ちなみに1冊目は『怪盗紳士ルパン』、2冊目が『ルパン対ホームズ』、3冊目『ルパンの冒険』と来て4冊目が『奇巌城』となっています。

『三十棺桶島』……タイトルからして何やらおどろおどろしい感じですが、中身もかなりヤバいです(笑)。

「横溝正史の『獄門島』や『八つ墓村』の原型がすでに描かれている」と解説に書かれていますが、まさにそんな感じ。

舞台はブルターニュ地方の孤島。周囲に危険な岩礁がたくさんあることから「三十棺桶島」と呼ばれている島。

ヒロインのベロニックは偶然見た映画の中に自分の娘時代のサインが書かれた「あばらや」を発見し、どうしてそんな見覚えのない建物に自分のサインがあるのか気になり、探偵を使ってその「あばらや」の場所を探し出す。

訪れた「あばらや」の中には老人の死体!そして四人の女が四つの十字架にはりつけにされている絵。しかもそのうちの一人の頭上にはまたしてもベロニックのサイン、自分の名前が!!!

もうここまでだけで「えぇぇぇっ!」という展開なのですが、まだたったの26頁。全523頁の大著の中の、ほんの冒頭です。

ベロニックはまた別の箇所に書かれた自分のサインと矢印、数字をたどって海岸へ出、三十棺桶島に渡ることになります。なんとそこには14年前に死んだと思われていたベロニックの父と息子が住んでいたのですが、次々と悲劇が起こり、あっという間にベロニックは「その島にたった一人取り残される」ことに。

150頁くらいで、島の住人みんな死んじゃうの。謎のあばらやで見つけた通り、3人の女は3つの十字架に架けられて。

4人目、最後の一人、ベロニックもはりつけにされてしまうのか!?

一人残されたベロニックがかなり気丈でびっくりしてしまいます。島の住人達は昔から伝わる謎の言い伝えに怯え、怯えるあまりに気が違って自分から死を選んでしまったりもしたんだけど、ベロニックは正気を保っている。

これまでのルパン作品と同じく次から次へ、これでもかという感じで事態が二転三転し、頁をめくる手が止まりません。

そして今回もルパンは途中出場。前作『金三角』で主人公二人が絶対絶命だったのを救ったように、今回もいよいよベロニックが絶対絶命な時になってやっと現れてくれます。

もうちょっと早よ来たってぇや(笑)。

『金三角』では主人公ペルバル大尉の部下がルパンのことを知っていて、ルパンにSOSを発するのですが、今回もSOS自体はかなり早い段階で出ているのですよね。

しかも『金三角』のペルバル大尉がちょっと前に三十棺桶島を調査に来て、島に伝わる秘密のことを知り、「それならうってつけの人物が」とルパンを紹介するという。

これぞ全集を順番に読む楽しみ。

ルブランの遊び心が嬉しい♪

もちろん「アルセーヌ・ルパン」と言って紹介しているわけではなく、『金三角』と同じドン・ルイス・ペレンナというスペイン人貴族として紹介しているんだけど、ベロニックの息子のフランソワは「きっと彼が助けに来てくれる」と救世主扱いで待ち望んでいた。

どうせならもうちょっと早く来てくれれば島の住人も死なずにすんだんだけど、「いよいよヤバい」という時になってやっと現れるからこそのヒーローではあります。

残り3分の1くらいのところで現れたルパンはベロニックを救い、真犯人をやっつけ、島に伝わる謎の「神の石」の正体も暴き、すべてはめでたしめでたし。

いや、だから島の住人30人くらいもう死んじゃってる(^^;)

ルパンが真犯人をもてあそぶところもあるけれど、基本的には謎解きをしてくれるだけなので、やはりヒロイン・ベロニックに次々と降りかかる悲劇&負けずになんとか後半まで戦い続けるベロニックのがんばりが白眉。

ルパンシリーズのヒロインはみんな美しいだけでなく、芯が強いよね。

読んでて思ったのは「予言の遂行性」。島に伝わる言い伝えの半分は実はテキトーなでっち上げだったんだけど、繰り返しそれを聞かされているといつの間にかみんな洗脳されて、「予言が実現するように」行動してしまう。

島の住人達が命を落とすことになるのも予言を信じすぎてパニックになったあげくで、冷静に対処して「実際に手を下している悪い奴がいるはずだ」と島内を探索していれば、少なくとも住人全員が犠牲になることはなかっただろう。

「予言の遂行性」というのは内田センセがよく言ってらっしゃることだけど、自分で口にした言葉が自分の行動を縛っていく。いいことであれ悪いことであれ、「ほら言った通りになった!」という結末を得たいがために無意識に「実現するための」行動をしてしまう。

それが古い言い伝えや語り継がれてきたことならなおさら信憑性が強くなって、信じているがゆえに一層行動を縛るように……。

「言葉にする」というのは本当に怖ろしいことだなぁ。

そして伝説の「神の石」。これは嘘っぱちではなく実際に存在したんだけど、「人を生かしも殺しもする」と言われたその石は、実はラジウムの鉱石。

放射性物質のことが話題にのぼらない日はない今、なんとも意味深な「神の石」であります。

続く『虎の牙』は二分冊の大長編。3作続けて「ゲスト出演」だったルパンがやっと「主役」として帰ってきました!

『金三角』『三十棺桶島』で名乗っていたドン・ルイス・ペレンナとして登場するのですが、かなり早い段階でみんなが「こいつはルパンではないのか?」と疑いの目を持ち出す。

『813』事件でルパンは死んだことになっていて、たとえ正体がバレても「死人を逮捕することはできないでしょう?」なのだけど、さて。

ドン・ルイス・ペレンナは「二億フランの遺産」を残して死んだモーニントンという人物の相続人に選ばれていました。ルパンがペレンナとして外人部隊で活躍している頃、モーニントンの命を救ったことがあり、多大な信頼を得て、「もしも自分の親族が誰も見つからなかった暁には遺産はペレンナのものに」と遺言されるのです。

そこで刑事がモーニントンの親族について調べていたのですが彼は毒殺され、死ぬ前に「今夜二重殺人が起こる」と警告を発していた。

第一相続人である技師の家で殺人がある、という警告にペレンナことルパンは早速その家に駆けつけ、技師の寝室のすぐ隣で張り込みます。ルパンと、実はルパンの手下である巡査部長と二人で張り込んでいたにも関わらず、誰も技師の部屋に出入りしなかったにも関わらず、技師はベッドで死体になっており、別の部屋でやすんでいた技師の息子も同じく亡くなっていた。

警告通りの二重殺人!

ルパンが張り込んでいたのに殺された。そして技師とその息子が死んだということはルパン=ペレンナに二億の遺産が……ということはつまりルパンが犯人!?

しかし庭から歯形のついた林檎が発見され、その歯形は技師の妻マリー=アンヌのものとわかる。そして彼女は技師とはいとこ同士であり、実は彼女もモーニントンの遺産相続人だった。

「動機あり、証拠(歯形)あり」としてマリー=アンヌが逮捕され、ルパンへの疑いが晴れたかに見えたのだが……。

『虎の牙』というタイトルは林檎についた歯形を差しています。

「♪殺人現場に林檎が落ちていた~ガブリとかじった歯形がついていた~♪」という郷ひろみ&樹木希林の『林檎殺人事件』は本作品がモデルだったりするのでしょうか?

謎が謎呼ぶ殺人事件、歯形はついていたものの本当にマリー=アンヌが犯人なのか。

見えない敵とルパンとの行き詰まる戦い、ルパンの屋敷の使用人フロランス嬢の不可解な行動、急速にフロランスに惹かれていくルパン。

途中で「技師とその息子」の殺人の真相には私も「当たり」がつき、作品内でもルパンが見事に解明してくれるのですが、しかしここで終わらずまだ「どんでん返し」があるのがルパンシリーズ。

「虎の牙」=「歯形」の謎は解かれていないし(これはまぁみんな割と早い段階で思いつくと思うんだけどな、現代なら)、遺産の行方は?黒幕は?何よりルパンの恋の行方は!?

真犯人像はかなり無理矢理というか、今だったらこういう造型にできないな、っていう……。前半まったく出てこない、推理のしようもない存在ではあるし。

もちろん「真犯人が別にいる」というほのめかしと、彼の関係する「場所」は出てきてはいるんだけど。

「推理小説」としてはかなりズルい感じのする真犯人。まぁルパンは「冒険小説」だし、何度も窮地に立たされながらそれを脱するルパンの活躍はホントにどきどきわくわく。「おいおい、どうなるんだっ!」と頁を繰らずにいられない。

冒険には勝っても恋愛には勝てないルパン、という印象だったのですが、今回はついに!

めでたしめでたしの結末!!!

いやー、懲りずに惚れた甲斐があったね(笑)。でもいくら何でも惚れっぽすぎるだろ、ルパン(笑)。

ルブランはこれをルパン最後の作品にしようと思ってたのかな?と思うようなラストシーン。「この不機嫌の時代では、忘れてならない美点だよ。彼は微笑を絶やさなかった!」と自分で言うルパン。

うん、でも本当にそこが魅力だよね。どんなピンチに陥っても、「最後には俺が勝つ」と諦めず前向きに戦い続けるその不屈さ、自信、大胆不敵で女に弱くて粋でお洒落な男前。

全集はまだまだ続きます♪

2011年9月25日 (日)

『オルヌカン城の謎』『金三角』/モーリス・ルブラン

ルパン全集読破チャレンジ継続ちう。

9巻目、『オルヌカン城の謎』。

相変わらずの怒濤の展開、息もつかせぬスリリングで謎めいた、掴めそうで掴めない真相にハラハラドキドキ、頁を繰る手が止まらない。

……でも、あれ、これってルパン、出てこないの? この主役の男の人がルパンってことはどうにもあり得ないし、他にそれっぽい人出てこないし、あれ?

「もしかして“ルパン全集”じゃなくて“ルブラン全集”なのかなぁ。必ずしもルパン物だけじゃないのか、これ」と諦めかけた頃、いきなりルパンの名が!

♪疾風のように現れて~疾風のように去っていく~♪

2ページくらいの出番だった、ルパン。

びっくりした(笑)。

ほとんど大物俳優の友情特別主演(爆)。

こんだけの出番でもルパンシリーズにカウントされちゃうのねー。ルパンさんパネェ。

ルパン出てこなくても面白いというか、主役のポール君がルパンに負けず劣らず大胆不敵、度胸満点、八面六臂の大活躍。超人的です。その原動力は奥さんへの愛、ってところがおフランス♪

第一次世界大戦時のアルザス地方を舞台に繰り広げられるドイツとフランスの激しい戦い。

主人公ポール君は新婚の夜、奥さんエリザベートのお父さん所有のお城(この辺がまた、日本では考えられないシチュエーション)でエリザベートのお母さんの肖像画を見てびっくり仰天。なんとそこに描かれていたのは10数年前に父を殺した女だった!

エリザベートが幼い頃にお母さんは死んでしまっていて、彼女に母親の記憶はほとんどない。でもいきなり新婚の夜に「おまえの母が俺の父を殺した!」と新郎に告発されてしまったエリザベートはもちろん大ショック!

ポールだって大ショックで、二人は顔を合わせられない。

そうこうしてるうちに戦争が始まり、ほんとんどやけのポール君は喜んで軍隊に参加。エリザベートには「そこは危険だからどこどこまで避難するように」と伝言を残し、当然彼女はそれに従ったものと思っていたのに実は。

「ママの無実の証拠をつかむまでこの城を離れるわけにはいかないわ!」と留まっていた。

しかし国境に近いお城はドイツ軍に占拠され、ポール君の部隊が辿りついた時には「女主人と使用人は処刑された」と……。

エリザベートは本当に殺されてしまったのか?

肖像画だけでなく、今現在にもポールの周辺に現れる「母親そっくりの顔を持つ謎の人物」の正体は?

「おんなじ顔とかあり得なーい」「しかもその娘とうまい具合に結婚するとかありえなーい」とのっけから「そんなバナナ」全開なのですが、しかしその謎が解けそうで解けない、エリザベートも救えそうで救えない、ルブランお得意のジェットコースターのような展開。

2日で読んじゃいました。

まぁポールの父とエリザベートの父は友人だったらしく、ポールの父が殺された場所もお城の近くで、決して「全然無関係に出逢った二人なのに実は」というカップルでもないのですが。

しかし幕開きから「えええっ!?」でした。

第一次世界大戦がまだ現在進行形な時に書かれた作品なのでドイツ軍及びドイツ人に対する描写が容赦ないです。子どもが読んだら「ドイツ人はこんなにひどい奴らなのか!」って刷り込まれそう。

「哀しいけどこれ、戦争なのよね」……ドイツから見ればフランスが鬼畜だったのでしょうし、ルブランの過剰と思える筆も「戦時下」ではいたしかたのないことかと。

ちゃんとこんなセリフもあるのです。

「しかし、少尉どの、人間ってほんとうに残酷になるものですね!人を殺して笑うのですからね!笑ってもいいのだと思うのですからね!」 (P210)

これはポールに付き従うエリザベートの弟ベルナールがポールに向けて言う言葉で、「少尉どの」はポールのこと。エリザベートのことを想い、ドイツ兵をやっつけた時しか笑えなくなっている兄に向かって、特に皮肉でもなくこう言うのです。

ルパンの活躍を楽しみに頁を繰ると思いきり肩すかしですが(笑)、ルブランの筆はさすがで、「戦時下の文学」という側面からも興味深い作品です。

続く『金三角』もルパンは途中出場。しかし今回はさすがに「2ページ」ではなく、後半しっかりと出番があり、謎もルパンが解いてくれます。

またその登場の仕方がすごいというか、「うわー、そう来る?」って感じなんだよね。

主人公のペルバル大尉がセネガル人の部下に「俺一人で果たして戦えるんだろうか?」と愚痴をこぼす。「こんな事件を解決するためには、あらゆる能力を備えた例外的な人物が必要だよ。おまえ、そんな人間を知らないか?」

セネガル人の部下ヤ=ボンは顔の半分を戦争で吹っ飛ばされていて、「ウィ」か「ノン」しかしゃべれない。大尉は彼のことを信頼してはいるけど、でも難しい事柄に関して彼が何か解決策を提示してくれるとあてにしているわけではない。彼に向かって話してはいても、それはほとんど一人語りのような、自分の気を鎮め、考えを整理するためのものでしかない。

だから「おまえ、そういう天才的な人物を知らないか?」っていうのも「言葉のあや」みたいなもんだったのだけど。

ヤ=ボンは「ウィ」って言うんだな、これが。

そしてルパンの名を書くわけさ。

憎い演出だなぁ、ルブラン。

もちろんペルバル大尉はヤ=ボンがルパンを知っていて、しかも呼び出すことができるなんて信じてなくて、「あてにしないで待ってるよ」みたいな感じですっかり忘れちゃうんだけど、ルパンはもちろん「ここぞ!」という絶対絶命のピンチに登場して大尉を救ってくれる。

あまりにもできすぎ。でもそれが許されるのがルパン♪

ヤ=ボンはかつてアフリカでルパンの命を救ったことがあり、その返礼として「困ったことがあったら俺を呼べ。いつでも駆けつける」とルパンに言ってもらってたようなのよね。この辺の義理堅さも怪盗というより義賊っぽいルパンの魅力。

物語は、ペルバル大尉と、彼が恋する人妻コラリーとの不思議な因縁を軸に進みます。

傷病軍人のペルバルと、ボランティアで看護婦として働くコラリー。偶然出逢った二人は互いに憎からず思うものの、コラリーは人妻で、しかもその夫のエサレスはかなりの悪党。

金貨を独り占めにしようとしたエサレスは仲間に脅され、そのピンチは脱したものの結局死体で発見される。果たして彼を殺したのは誰か?そして三億フランもの金貨の行方は?

しかもペルバルとコラリーの出逢いは偶然ではなく、ペルバルの父とコラリーの母がかつて愛し合っていたことが判明。しかも二人は策略によって殺され、今再びその息子と娘も親とまったく同じ方法で殺されかける……。

親の代からの因縁といい、殺されかける場面での「愛の告白」といい、ホントにおフランスというか、むしろ日本の昼ドラのよう。いやー、ホントにねー。よくまぁルブランはこんなに「これでもか!」という展開を考えますな。

途中で事件の真相=犯人には気がついてしまったので、翻弄されるペルバル大尉がかなりウザかったです。いい加減気づけよーーー。

犯人の真相に比べれば、タイトルである「金三角=金貨の隠し場所」はわりと呆気なかった。ルパンがまんまと犯人を罠にはめ引導を渡すところがやはりこの作品の白眉ですね。

『オルヌカン城の謎』と同じく第一次世界大戦が背景にあり、ルブランは主人公ペルバル大尉に「祖国のために闘って手足を失ったんだ、何を恥じることがある!」というようなことを言わせています。彼自身はそれなりにお金持ちなようなので、その気になれば立派な義足も作れるけれど、「粗末な木の義足で我慢しなければならない兵士がいっぱいいるんだ」と言って業者を追い返す。

「なんだって、ほんものそっくりの義足だって!しかし、なぜそのようなものが必要なのかね?おそらく、世間の眼をだまし、ぼくが片足であることを気づかれないようにするためなのだろう。つまり、きみは、片足であるということは欠陥であり、フランスの将校であるぼくは、それをはずかしいことのように隠すべきである、と思っているのだ、そうだろう?」 (P50)

ルブランの筆に勇気づけられた兵士がきっとたくさんいたのでしょうね。

2011年9月 8日 (木)

『水晶の栓』『ルパンの告白』/モーリス・ルブラン

はい、ルパンシリーズ読破に向けてがんばっております。都合によりリンクはハヤカワ文庫ですが、実際に読んだのは偕成社の完訳ルパン全集。

『813』でもルパンは強敵相手に大変苦労していましたが、今回も大苦戦。2作続けて読むと「ルパンって実はたいしたことないんじゃないの?ルパンを翻弄できるだけの知恵と力を持ったヤツがいっぱいいるじゃん!」と思ってしまうほど。

もちろん最後にはルパンが勝つんだけど。

さすがのルパンも今回はもう諦めかけてたもんねぇ。ギリギリで、それも「たまたま」なんとかなったという感じで。

最後に「運」を味方に引き入れる、それこそが「真の強さ」なのかもしれないけど。その「偶然」をしっかり掴んで利用できるんだもんね。

可愛い部下の処刑期日が迫る中、「水晶の栓」の謎を追うルパン。「ついに!」と思ったらやっぱり「まだまだ!」があるし、読み始めると止まらない。

フランスで実際に起きたパナマ運河疑獄をモチーフにしていて、エンターテインメントだけでない、社会派の側面も見せるルブランさん。スエズ運河を成功させたレセップスさん、最後は失意のうちに亡くなっていたとはな……。

ルパンの惚れっぽさは相変わらず健在。みなしごと未亡人の守り神だからな!

そして守り神は決して「一人のもの」になってはいけないのだ。今回もお別れだぜ、ベイベー。って、ルパンはフランス語か。なんて言うんだろうな。未亡人だからマダムでいいのかな?

打って変わってこちら『ルパンの告白』は短編集。粋でお洒落なルパンが楽しめます。長編で強敵に苦戦するルパンよりこちらの方がより「ルパンらしい」と言えるかも。怪盗というよりむしろ名探偵だよね-。まぁ「冒険家」という肩書きが彼には一番ふさわしいんだろうけど。

短編はアイディア勝負。9編どれも面白くてルブランさんすごいです。

中で私が一番気に入ったのは「地獄の罠」。なんとルパンはただのおばちゃん(と言っても生業は掏摸だけど)の罠にはめられ、絶対絶命のピンチ。

「怪盗のなかの怪盗、人をよせつけず、姿さえ見せないことを誇りにしているルパンともあろうものが、こうして女子どものかけた罠にはまってしまったんだ!」 (P131)

やっぱりルパンって実はたいしたことないんじゃ(笑)。

しかーし!

我らがルパンはどんなピンチも切り抜けるのだ。それも小細工や策略なんかではなく、ただその「男っぷり」で勝ってしまうのだ!

……そう、ルパンに好意を持ってしまった女の子が助けてくれるんですよ。ルパンはただみっともなく捕まって、自分じゃ何の手立てもなく、なすがままなのに、敵側の子が寝返ってくれるの!

そんで最後に自分の顔を鏡でながめながらルパンは言う。

「しかし、こういうことなのかね」と、ルパンはつぶやいた。「いい男だというのは!……」 (P152)

かーっ、もうルパンったら!!!

おフランスですな。

おフランスですよ。

「ルパンの結婚」もそういう系統の話で。いい男ってゆーのはねー、得だよねー。

でも「いつか王子様が」と夢を見て33歳になってしまった女の子のところに天下のルパンが忍び込んで婚約指輪をはめてくれたりしたらさー。もうそりゃたまんないよね。その夜の思い出だけであとは一生生きていけるよ。

生活のために好きでもないぱっとしないいとこと結婚するのに比べたら、ルパンと結婚するなんてどんだけファンタジーか!

たとえそれが彼女のお金目当てで、別にルパンに見初められたわけでも、実際にルパンと結婚生活を送るわけでもないとしたってさ。むしろルパンと生活を営むのは大変に違いないし。

しかし、ルパンを見上げたアンジェリクの目があまりにも澄みきって誇りにみちていたので、こんどはルパンのほうが赤くなった。

夢を食べて生きていた女の子は意外に強い。

ルパンの妻となり、ルパンを救って、ルパンに顔を赤らめさせた。

アンジェリクは自分を「利用され、一生をめちゃめちゃにされた不幸な女」だなんてこれっぽっちも思っていない。

それもこれも、やっぱりルパンが「それだけの値打ちのある男」だからだよね。

うぷぷ。

2011年8月21日 (日)

『813』『続813』/モーリス・ルブラン

やっと「続」を借りてきて、これまた一気読みしました♪

「続」と書いてあると、「続編」のようですが、実際には「813」という一つの物語の前編と後編、第一部と第二部。

「813」で訳されているのが第一部の「アルセーヌ・ルパンの二重生活」。そして続が第二部「アルセーヌ・ルパンの三つの犯罪」。

とりあえず「813」だけ借りてきた私は「えええっ、こんなとこで終わりなのーーーーーっ、ちょっと早く続き続き!」と思ったのですが、原著の第二部は第一部発表から7年も後に刊行されたのだとか。

そんなに待たされたら第一部で何があったのか忘れちゃう……(笑)。

たったの数週間間が空いただけでも「えーっと」って思うのにね。

「813」は「奇巌城」と並んでルパン作品の代表格であり、もちろん私も子どもの頃に読んでたんですが。

相変わらずまったく覚えてなかった(爆)。

いや、「813」にまつわる謎、「813自体の意味」はなんとなく覚えてたんですよ。でもこの作品、「813」といういわゆる“暗号”の解明はたいした主題ではないんですよね。

ルパンと同じく「813」を追う謎の殺人鬼、正体不明のその「誰か」とルパンの追いつ追われつ。「こいつか!」と思ったら「いや、まだだ」、「今度こそこいつか!」と思ったら「いや、おかしい」って、どんでん返しにつぐどんでん返し。

途中で「もしかして…」と当たりがついてくるものの、『奇巌城』と同じく「何回クライマックスが来るんだ?」という感じ。

真犯人にはちょっと納得がいかないし(=あの人に本当にあれだけのことができるんだろうか?)、「狂人の家系」とか今だとちょっと書けないというか、「だからこいつもヤバくて犯人」みたいのは納得していいのやら悪いのやら。

まぁそもそもルパンの「二重生活」が無茶って話はあって、公爵ぐらいになりすましてるのはともかく、何年も警察の人間として普通どころか思いきり活躍しちゃうとかどんだけー。

本人確認がテキトーな時代っていいね(違っ)。

でもルパンのわくわく感ってやっぱりそーゆー、ケータイなんかない、アナログな時代背景にも依っていると思うんだよね。ルパンが新聞に声明を出したりさ。

今となっては色々な「それは無茶だろ」も、100年前のお話だと思えば半分異世界で、ファンタジーとして読めちゃうし。

全部「リアルタイム」だったはずの当時の読者にとっては……「ルパンなら多少の無茶も」だったんだろうなぁ。

「無茶」あってこその“物語”。

つじつまとかリアルさばっかり追求してると面白くなくなるよね。

「時代背景」と言えば、「813」の第二部が刊行されたのは1917年(大正6年)。第一次世界大戦の真っ最中。1918年の終戦を前にして、フランス国民は疲弊していた(らしい)。「813」のルパンはそんな祖国フランスを勇気づけるかのように、かなり愛国心に燃えた活躍をします。

アルザス・ロレーヌ地方やモロッコの話が出てきたり、ドイツ皇帝と渡り合って、「わたしに仕えてみないか」とまで誘われる。

応えてルパン、「わたしはフランス人です」。

一番最後も「フランスのために!」という言葉。

当時のフランス国民はさぞこの“英雄”に喝采を送ったのだろうな。

私は100年後の日本人だけど、ドイツ皇帝相手に「はったり」での大勝負を挑むところなんか、ホント惚れ惚れしてしまいます。

知力、体力、大胆不敵、品のあるユーモア。

そして弱さ。

「だがルパンに、未亡人とみなしごの守り神であるこのルパンに、戦いをいどんだりするからだ!」 (『続813』P246)

って、ルパンは自分で言ってるんですが(思わず苦笑しちまったよ、ルパン)、「守り神」というより、未亡人に「弱い」……。

惚れっぽすぎるよね、ルパン。

そして常に哀しい結末になるというね……。

ルパンが未亡人とみなしごに弱いのは、自身の生い立ちのせいだと思うけど、「冒険」においては抜群の知力を発揮するルパンが、女の子に対して間違った幸せを押しつけようとしたり、乳母のビクトワールに未だ「かわいそうな坊や」と言われてしまったり。

人間ばなれしているように見えてとても人間的なところがルパンの魅力。

 

さて次はどんな冒険が待っているのかしらん。

わざわざ書庫から出してもらわなきゃいけないのがめんどくさいけど、引き続き『水晶の栓』行くぞー!おー!

2011年8月 1日 (月)

アルセーヌ・ルパンとの再会

きっかけはこの集英社文庫のカバー。

『家庭教師ヒットマンREBORN!』の天野明さんが描くルパンとボートルレ。ほとんどガンマとツナです(笑)。

書店で見つけてうっかり手を伸ばしそうになり、一度は「いやいや、こんなカバーに騙されては思うツボ」とその手を引っ込めたものの、「このカバーだったら息子ちゃんも読むんじゃね?」と思い、結局買ってしまった。

読書家であるはずの息子ちゃん、ルパンもホームズも読んだことがないのだよ。

そんなことがあっていいものだろうか。

私が子どもの頃は学校の図書室にも「推理小説」の棚があって、ルパンやホームズ、エラリィ・クイーンにクリスティ、ルルーの『黄色い部屋の秘密』などが並んでいたのになぁ。

小学校5年の時に近所にできた市立図書館で「推理・SF」の棚ばっかり読んでたもんさ。

が。

今、うちの近所の図書館の児童書コーナーにそういう棚はない。

何年か前は一応ちょこっとコーナーがあったんだけど、今はすべて著者別。

そしてルパンやホームズの本は代表的なのが1~2冊ひっそり並んでいるだけ。

新しい本がどんどん出る以上、開架で置けるのは限られている。古い作品、古い本が片付けられてしまうのは詮ないことではあるのだが。

寂しい。

寂しいぞ。

ルパンもホームズも読まずに中学生になってしまった息子ちゃん。「ほらほら、このカバー見て!」と半ば無理矢理本を渡す。

残念ながらこの集英社文庫のナツイチスペシャルカバー、カバーだけで中には1葉の挿絵もない。(原著で使われた挿絵等の口絵はあるんだけど)

ガンマ=ルパンとツナ=ボートルレの挿絵が3点ほど入っていればさらに訴求力アップだったのになぁ。

が、まぁ無事息子ちゃんは読み始めてくれた。

2時間ほどぶっ続けで読んで、あっという間に読み終わってた。

息子ちゃんの読書集中力はすごいです。活字中毒度は私以上と言って過言ではありません。

「面白かった?」と訊くと、「うん、クライマックスが3回もあった!」。

息子ちゃんの後、私も読みました。ルパンシリーズは小学校高学年から中学校にかけて夢中で読んで、当然『奇巌城』も読んでいたわけですが、何しろ30年も前の話。

「これってこんな話やったんやー」

ほとんど覚えてなかった(爆)。

タイトル通りの「自然の要塞」が出てくることは覚えていたんだけど、ボートルレ君のことなんかまったく記憶にないし、「この人物って実はルパンじゃないの?」という予想はできつつもほぼ「まっさら」の状態でお話を楽しんでしまいました。

なるほどクライマックスが3回。

事件が片付きそうで片付かない。

ボートルレ君は17歳の天才探偵少年で、言うなればフランスの工藤新一くん。どっちかというとルパンよりもボートルレ君が表に出ている話。もちろん最後にはルパンの方が上手(うわて)だということがわかり、しかしやっぱりルパンにハッピーエンドは待っていないという……。

ルパンシリーズを読んでいる方はご存知かと思いますが、ルパンって惚れっぽいんです。

そしてルパンの恋は大抵成就しないんです。

ルパンが「オ・ルボアール(また会いましょう)」と言っているのに、ヒロインは「アデュー(永遠にさようなら)」と言って去っていく。

子どもの頃の私はこのやり取りに「うぉぉぉ、おフランスぅぅぅ!!!」と萌えたものでした。

私はホームズより断然ルパン派だったのですが、そのお洒落でおフランスな感じも魅力の一つだったのですよねぇ。そしてルパンが「悪党」であること。自信満々、大胆不敵、悪党だけど憎めない、「天晴れ!」と讃えたくなる。

ルパンを敵として追いつめるボートルレ君も、最後にはルパンに惹かれているものね。

あれだけとんでもない力量を持っているのに――持っているからこそ――、愛する女性と幸せな結末にはなれない、というところがまたなんとも乙女心をくすぐります。

久々にルパンの魅力に触れ、もっとルパンを読みたくなったわたくし。

図書館行って『813』を借りてきました。

この偕成社の「アルセーヌ・ルパン全集」は、私が小学校の6年か中学1年ぐらいの時に刊行が始まり、図書館に配本されるのを楽しみに読んでいたもの。

置き場所さえあれば今でも全25冊揃えたいほど愛着があります。(もっとも当時は確か全巻読破せずに終わった…)

今、近所の図書館ではこの全集は書庫に置かれています。カウンターで「この本読みたいんですけど」と言って取ってきてもらわなくちゃいけません。

カウンターのおじさん、「あ、それどっちかというと児童書ですけど、いいですか?」と訊いてくれ、「何だったら大人用のを検索しましょうか?」とまで言ってくれました。

ええ、でもそれでいいんです。それがいいんです。

「大人用」のルパンって、意外とないし。

新潮文庫の『813』なんて堀口大学訳だもの。堀口大学ってあれでしょ、『月下の一郡』。明治じゃないの!?

……昭和56年までご存命だったらしいですが。新潮文庫は1959年(昭和34年)刊行のようですが。

どっちにしてもかなり古い訳。

Amazonのレビューによるとルパンが「わし」と言っているとかいないとか。

集英社文庫の『奇巌城』も、もともと1973年に旺文社から出されたものの復刻のようで、訳文は少し読みづらい感じがします。それだけ読んでるとまぁ許容範囲なんだけど、偕成社の『813』を読むとやっぱりこっちの方がずっとすらすら読める!と思うのです。

偕成社のシリーズは「完訳決定版」「読みやすい新訳で」って後ろに書いてあるんですよねー。新訳ったってもう30年経ってるんだけど。

ハヤカワ文庫が何点か新訳でルパンを出していますが、『813』はない。

そのうち古典新訳文庫がルパンを「今、息をしている言葉で」訳してくれるかもしれませんが、まぁ全作品は無理でしょうね……。こんなに面白い『ルパン』なのに、大人向けの新しい版がないのは非常に残念。

もっとも偕成社の全集も、図書館では「児童書」と分類されていますが、「完訳」だし、大人が読んでも十分楽しめます。

『813』、一気に読みました。これまたどーゆー話だったかすっかり忘れちゃってるので、どきどきわくわく、頁を繰る手が止まらない。

そんなバカな!というところもあるんだけど、でも面白いんだなー。『続813』を一緒に借りておかなかったことが本当に悔やまれる。続きが気になりすぎる!!!

買ったまま読んでない本が何冊かあるんだけど、ちょっとこの際だからルパン全集全部読んじゃいたい衝動が(笑)。

なんかねー、最近の本は読む気がしないんだー。昔の作品で読んでないのいっぱいあるし、読んでも忘れちゃってたり、今読むとまた新たな視点で楽しめると思うし。

子どもの頃達成できなかったシリーズ読破を今やるのも楽しい。

とりあえず『続813』を早く借りに――行く前に、『813』と一緒に借りた別の本を読まねばならぬ。あうあう。

 

そうそう、偕成社版のいくつかはお求めやすい「文庫版」も出ています。

まだルパンに出逢っていない子ども達へのプレゼントにいかがでしょうか(笑)

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